ぶちねこ

...  はじめて飼ったねこは,白と黒のまだら模様のぶちねこだった。色の割合は白地をベースに黒の模様が入っていたので,八割がた白だった。耳には黒色はなく,背中の左側に四国の地図のようなまだらがあるのが特徴だった。ぶちは弟が近所で拾ってきたのだ。 最初,動物があまり好きでない父親の「すぐに捨ててきなさい」のひと言で,泣く泣く弟はぶちねこを拾ってきた場所に戻した。家からはわずか20 メートルほどの,駐車場のわきに捨てられていたのだ。まだ幼かった弟に,私が駐車場まで付き添うように母親に言われて一緒に行った。日が沈んだ駐車場には,全体の三分の一にも満たないほどの車が停まっていた。全身で泣いていることを表現している弟をよそ目に,私はぶちねこを弟が示したもと居た場所に下ろした。車止めに23と書かれたそのすぐ後ろの,あまり手入れされていない雑草の生えているところだった。ぶちねこをそこに置くと,ぶちは置かれた状態のまま動かなかった。ただ,その瞳は弟に注がれていたのが分かった。
ところがぶちねこは翌日わが家にいた。ぶちを家に入れたのは父だった。まだ子ねこだったにもかかわらず,ぶちは夜の間にわが家までやって来たのだ。朝刊を取りに外に出た父の目に前にぶちはいた。ぶちは父のあとに続き,当たり前のようにわが家に入ってきてしまったのだ。その後,幼かった弟がぶちのそばからしばらく離れなかった。結局,弟の熱心さに負けた父は,ぶちを飼うことを許したのだ。

 演技者で人間をあざむくことができるほどのぶちだったが,そんな彼にも計算外のことがある日起こった。わが家で飼ったねこの中でも,クレープを除けばぶちはもっとも定していたねこだった。怪我をしたのは足をくじいたことだけだった。病気らしい病気はほとんどしたこともないし,丸一日家をあけることなどなかったのだ。午前中に出かければ,昼前には一度帰り,夕方に用事があっても一時間以内には帰ってきた。でも,たった一度だけ一晩中帰ってこなかったことがあった。

 二月の新月の夜,ぶちは珍しく夜更けに出かけた。母は「今夜はねこの集会でもあるのかい」と言いながら,ぶちを縁側のある部屋から出した。窓を開けるとぶちは,外の寒さに気づいたのか,ほんの一瞬ためらって庭先を見つめていた。でも,結局ぶちはそのままストンと下りていった。暗やみに,ぶちの姿はその白い部分の印象をほんの少し残して消 えて行った。それが,私がぶちを見た最期の姿だった。
いつもなら,一時間もすれば帰ってくるぶちは帰ってこなかった。
私も弟も母も,そして父までもが心配して近所を探しに行った。けれども,ねこの集会 もなければ,ぶちの姿も見つけられなかった。 ...


 表札のない家のチャイムを鳴らした。しばらくすると,家の中から人の気配がした。私はゆっくり深呼吸をして,背筋を伸ばし“臨戦状態”に備えた。インターホンの小さなスピーカーから女の子の声が聞こえてきた。