はなちゃん

 こんにちは。今日は私のことを少し書きます。私はいま高校3年生です。女子校に通ってます。受験生なので勉強をしっかりしなければなりません。けれども家のことや体のことがあって学校はしばらく休んでいます。学校に行けず勉強も捗らない辛い毎日を過ごしていました。そんな時に出会ったのがクレープでした。私の名前は『はな』です。私が落ち込んでいるとき,クレープはいつも私に元気をくれます。寝転んでいる私の顔に彼女の頭を付けてぬくもりを分けてくれるのです。ねこ特有の習慣ではなく,私の冷たい額を温めてくれるのです。そしてその後にそっと添い寝をしてくれます。それで私は穏やかに眠りにつくことができるのです。何度もクレープが眠れない私を寝かしつけてくれました。そして目覚めるといつもそこにはクレープがいてくれた証のくぼみを残し,あなたのもとへと帰っているのです。

 彼女からの手紙は来ていたのだ。何という失錯をしてしまったのだろう。自分で自分に腹が立った。彼女が何日間も手紙を書かないはずがない。今回の手紙はいつもよりも長いから,きっと彼女・はなちゃんは薄い紙を選んだのだろう。そんなことなど知りもせずに私は勝手に手紙が来ない理由ばかり考えていた。そして思い出そうとした。この前ソファを移動して掃除をしたのはいつかを。拭き掃除はたいてい週の初めと週末になる前,木曜日か金曜日にすることが多い。今日が木曜日だからこの前の月曜日か?いや,月曜日は二階のベランダの床の汚れが気になり,そこを集中して掃除した。床をきれいにしたら鉄柵の汚れも気になり雑巾ですっかりきれいにして満足していた。そうなるとソファの裏を見たのは一週間も前になる。最悪,彼女からの手紙は一週間も前に来ていたことになる。そしてこの一週間,クレープはほぼ毎日外に出かけていた。梅雨が明けるのを待っていたかのように毎日出かけていたのだ。そしておそらく毎日彼女の家に行っていたのだろう。そして空のプレートを見るたびにはなちゃんはがっかりしただろう。話を聞いて欲しいと言ったのに,その返事をしない私をどう思ったことだろう。

 私は急いで手紙を書こうと,信用金庫のメモ用紙を取りに行った。けれどもクレープはついさっき出かけてしまった。何てことなの!私は再び自分のミスを嘆いた。もう少し早く気づいていれば,いいえ何日も手紙に気がつかないなんて情けない。彼女のことはもっと分かっていたはずなのに。私にはこうしたミスをこれまでに何度かしたことがある。分かっているはずなのに,自分の都合のいいように解釈してしまうミスだ。その中には後戻りできないこともあった。そのたびに私は自分の行動を悔やみ戒めるのだが,同じ類いのことを犯してしまう。有り体に言えば学ばないのだ。自分の性格にあきれてしまう。結局はそれが私なのだと諦めるしかないのだろう。

 クレープが出かけてしまったからには,今日のうちに彼女に手紙を届ける術はない。一日に二度も出かけることはクレープに限ってほとんどない。その日に手紙を届けることは断念した。けれども手紙は書いておこう。そう思った。返事を書く前にもう一度彼女の手紙を読み返した。彼女は私が想像していた若い主婦ではなく高校生だった。仮に高校生だとしても高学年であることは想像していた。手紙の文体や文字からそう感じていた。受験生でありながら学校に行けない事情とは何だろう。家のことや体のことだと書いてある。芝生を荒らすと大変なことになる父親が居るのだろうか。彼女は父親を恐れているのかもしれない。健康に問題があるのだろうか。いろいろな憶測が私の頭の中で飛び交った。『はな』という名前はかわいらしい。どんな漢字なのだろうか。華,花,葉奈 それともひらがなだろうか。今までで一番長い手紙は,それでもふつうの手紙に比べれば短い。それはクレープが運べるぎりぎりの大きさだろう。なかなか来ない返事を私も待ち続けた。返事はどうしたのかしら?と。そしてはなちゃんは自分のことを書いた。高校生であること,学校を休んでいること。彼女にとっては勇気が要ることだっただろう。それなのに私は返事を書かなかった。信用金庫のメモをテーブルに置き私は返事を書き始めた。