2021-01-01から1年間の記事一覧

長い午前の時間

彼女もまだ最初は子ねこだった。その後は皮肉なことに,拾ってきた私との相性は最悪だった。ただ,それも最初からのことではなかった。何がキッカケだったのか,今となっては思い出せないが,多感な時期を迎えていた私のわがままが最大の原因だったのだろう…

迷い道

「どちら様でしょうか」と女の子は,会社で研修をきちんと受けたような感じの,少し線の細い声で言った。 「あの~,ちょっとお話ししたいことがあるんですが」と,私は彼女の問に答えず,いきなり本題に入ろうとした。 「どういったご用件でしょうか」と彼女…

ぶちねこ

... はじめて飼ったねこは,白と黒のまだら模様のぶちねこだった。色の割合は白地をベースに黒の模様が入っていたので,八割がた白だった。耳には黒色はなく,背中の左側に四国の地図のようなまだらがあるのが特徴だった。ぶちは弟が近所で拾ってきたのだ。 …

表札のない家

翌朝,いつものようにダンナが出勤すると,私はラジオのスイッチを入れ FM を聴きながら洗濯と朝食の後片付けをした。洗濯機がまだすすぎの状態のとき,二階に上がり布団をベランダに干していた。毛布を干し次に敷き布団を取りに行こうとしたときに,クレー…

返事

私はこれ以上嘘はつけないと思った。母が来ていなかったことを正直にダンナに話した。するとダンナは, 「何でそんな嘘をついたんだ。先方にも失礼じゃないか」と言った。 「ごめんなさい。どうしても今日は出かける気になれなかったの。ちょっと考え事をし…

短い手紙

私はクレープを起こさないように,そっと首輪を外した。そしてネームプレートのカバーをとり,「ミケ」と書かれた紙をそこから抜いた。すると,その下には丁寧に折られた一枚の薄い紙があった。取り出す前からそこに文字の存在が確認できた。二度折られたそ…

嘘をついた夜

昨日とまったく同じ種類の首輪をしてクレープは帰ってきた。のみ取り用の白い首輪だ。ネームプレートには昨日と同じ字で「ミケ」と書かれていた。それを見て私は確信した。クレープは明らかに他の家にも上がっているのだと。もし家まで上がらないにしても,…