2022-01-01から1年間の記事一覧

無彩色の世界

月明かりの無い夜にクレープが出掛けてからしばらくしてダンナは蟻の巣穴の観察を終え家に入りそのまま書斎へ直行した。蟻の行動を見ていて何かを思い出したかのようだった。「女王蟻の生態が…」と呟いていた。女王蟻?女王蜂はよく聞くけど,蟻にも女王が居…

新月の夜のお出かけ

ダンナが帰ってきた。昨晩のこともあり,私はちょっとバツが悪かった。でも,ダンナはそんなことはまったく気にしている素振りも見せなかった。いや,表現が適切でない。ダンナの名誉のために言えば,彼はまったく前夜のことなど気にしていなかったのだ。ダ…

しっぽの振り方とクレープの機嫌

後味の悪い夢から覚めたとき,日はまだ十分高い位置にあった。夢と湿気のせいで私は汗をかいていた。すぐに時計を見る気にはなれなかったが,おおよその時間の見当はついた。上半身だけ起き上がり,しばらくはぼんやりしていた。そして思い出したように私は…

黒ねこの夢

「こんにちは。返事ありがとう。この子はうちで飼っているねこです。クレープという名前は私がつけました。あなたも同じように呼んでくれると嬉しいです。クレープは私たちが引っ越してきて間もなくやって来ました。その時はまだ,子ねこでした。だからこの…

半分の便箋

「こんにちは。クレープの飼い主さん。この子の名はクレープという名前なのですね。なんてかわいらしい名前なんでしょう。あなたがつけた名前なのでしょうか。わたしはずっとこの子のことを『ミケ』と呼んでいました。それで彼女は何度も返事をしてくれたの…

はじめてのプレゼント

何事もなかったかのようにクレープは帰ってきた。もうすぐ昼になるのは確かだったが,午前中に帰ってくるとは思っていなかった。クレープは首輪をしたまま,庭からリビングに上がった。私は冷や麦をすくいかけた箸をテーブルに置き,彼女の近くに座った。ク…